お雑煮

とりあえずKA書初め。さらっとした正月です。

 

「おはよ」
「……おはよう」
もぞもぞと暁人が動き出して目が覚める。いつものことだ。同じ部屋で暮らし、同じベッドで眠る。当たり前に許された温さをありがたく享受して起き出そうとする暁人を抱き込む。
「KK」
「もう少し」
「お雑煮食べようよ」
「じゃあしょうがねえな」
後ろ髪を引かれるが、腹ペコな暁人を捕まえ続けていると後々まで引きずるのでほどほどにしたほうがいい。腕を緩めてやれば体を起こしながら暁人が言う。
「KKはお餅何個?」
「二つ」
「足りる?」
「お前昨日他にも色々作ってたろ」
「そうだけど」
歳相応以上によく食べる暁人に付き合っていては腹がはち切れる。体力勝負な仕事柄同じ年齢の平均よりは胃は強いはずだが、暁人の食事量については何なら見ているだけで充分だと感じることさえある。若い時でもあんな食えたかな。
「足りなかったら焼けばいいしね」
俺は普通に足りるが暁人は多分追加で焼くんだろうなと思いつつ起き上がり、肩を回し伸びをする。
「ちょっと掛かるよ」
まだ寝てていいのにと言いながら台所へぱたぱたと向かっていった。
昨日暁人は雑煮だおせちだ年越しそばだと次々になにか作っては冷蔵庫へと納めていった。暁人が朝から夕方まで台所に立っていて流石になにもしないという選択肢はKKにはなく、とはいえ手伝える事もないので部屋の大掃除をすることにした。そうは言っても越してきたばかりの部屋だし普段暁人がなにかとこまめにやっているらしく正直それほどやることもない。せいぜいベランダで網戸や窓を洗ったくらいだ。暁人がいつの間にか買っていた便利グッズを使って今どきはこんなのがあるんだなと思いながら。

こんなにゆっくりと年末年始を過ごしたことは前職の時は無かったなと思う。今も今で休みは有ってないようなものではあるけれども。
テレビの前のこたつに陣取りそれぞれの電源を入れた。明けましておめでとうございます。煌びやかどころかギラギラとした新年仕様の画面。何がやっているかもわからないからリモコンで画面を切り替えていく。知らないようで知っている芸能人が年初の装いで次々に映し出される。もうこれでいいかとリモコンを置いた。
「なんか面白いのやってた?」
「いや?見てえのあれば変えていいぞ」
「そう?」
暁人がテーブルの上に次々とタッパーを並べていく。おせちと言っても細々としたものは市販だし、売っているやつを買うかと言ったが好きじゃないものも入ってるし自分の好きなものだけ作った方がいいと言うので見送った。こいつに嫌いな食べ物ってあるんだなと思った。どれかは結局聞いちゃいねえが。
概ね運び終えてこたつに入った暁人と一緒に手を合わせた。
「「いただきます」」
「お前の家の雑煮は普通に関東風か」
「あー、うちのはそうだけど、味……は違うかな」
微妙な真が空き、しまったと思ったが言ってしまったものは仕方ない。暁人も暁人で余計なことを言ったと目を逸らしている。
「お雑煮だけは真理が作ってたんだよ。具も切り方も見た目も同じだと思うんだけど、やっぱりなんか違うんだよね」
母さんがいた頃は、台所なんて立たなかったからさと眉を下げて笑う暁人になんて言ってやったらいいのか。おふくろの味なんてものを懐かしむことは確かにあるが、いまだかつて自分で作ろうと思ったことはない。今時の若い奴らは違うんだろうか。違うんだろうな。特に、暁人は。
どうせなら引き継ぎたかったんだろう。そうはいってもこいつが料理をし始めたのは多分そうするしかなくなってからだろうから、そういう意味では当時は妹の方が一緒に台所に立ったりしていたのかもしれない。
そういう色んなものがあるのはわかっている。が、やっぱ俺はお前が作ったものがいいんだぜ。そういう意味ではおふくろの味なんてものは必要じゃない。
「別に、いいだろ。お前の作る雑煮がうちの雑煮なんだから」
「そう、そっか」
思ってもみなかったみたいな顔で目を丸くして雑煮をつつきだした。
「なあ、肉多くねえか」
「そう?」
うまそうに次々とたいらげていく暁人を見て、来年は肉尽くしのおせちを買ってやろうかと思った。

2023/1/1