学ラン

追加コンテンツのあれやこれ。当然ご都合主義

街中の喧騒から少し外れた小路の狭い隙間からこちらを招く手があったので、さっと周りを見回してから暁人はそちらへ近付いた。またかと思っていると、やっぱり大きな紙袋が差し出される。サイズ的には服屋で嵩張るアウターを買った時に出てくる袋といったところだろうか。早く受けとれとばかりに揺らされる紙袋を受けとれば招いた手は用は済んだとばかりにフッと消えてしまった。しかもこれが初めての事ではない。なんとなく恒例になりつつあるなと暁人は紙袋を手にアジトへと向かった。

アジトへ足を踏み入れるとソファにだらしなく腰かけたKKが何か資料を纏めていたらしかった。テーブルに数札の本を積み、広げたノートの上にはボールペンが転がっている。視線を上げ、暁人の手に何度か見た大きな紙袋がまたある事に気付くと呆れたように言うのだ。
「またなんか押し付けられたのか?どうせろくなもんじゃねえんだろ」
「まあまあ、やっぱり服みつだけど…学ラン?」
KKを奥へ押しやりソファに座る。膝に置いた紙袋を二人で覗き込めば黒い布地があった。学ランだと分かったのは特徴的な詰め襟の部分が見えていたからだ。
「またコスプレか」
「KK着る?」
「着ねえよ」
だろうねと笑って紙袋から服を出してみる。
確かに学ランだが少し丈が長いような気がする。ズボンも少し太めで、ついでに靴のかわりに入っていたのは下駄だ。それから襷とハチマキであろう細長い赤い布。

「KKこれってさあ」
「応援団だろ」
「やっぱり?でも本当になんで毎回服をくれるんだろうね」
「さあな。さっさと着てみろよ」
「えーやっぱり着るの?」

暁人は度々何故かは良く分からないが招く手に紙袋を渡される。それの中身はだいたいが服だった。どこぞのアイドルのコスプレだったり法被だったりとバラエティーに富んでいていっそ面白いとさえ思ってしまう。KKも面白がっているのか最近は毎回着てみろと言うのだ。それに何度も繰り返せば良くも悪く慣れたもので、渡されるのはただの服だしと一度くらいは袖を通すようになった。

女性陣も居ないしと立ち上がりそのままジャケットを脱いでソファの背に掛けた。ベルトを緩めパンツを学生服のものに履き替えた。やはり少し太めのズボンにベルトを締める。シャツは入っていなかったので元々着ていた白のTシャツの上にそのまま学ランを羽織る。不思議なことに渡された服はサイズが合わなかったことが無い。

「学ラン初めて着たよ」
「制服はブレザーか」
「そうだよ。KKは学ラン?」
「まあまだ主流だったからな」

学ランの金ボタンを嵌めてから襷に手を伸ばしてふと思う。

「これってどうやるんだっけ」
「あ?あー…貸せよ結んでやる」
「説明するのめんどくさいんでしょ」
「そりゃやった方が早いからな」

ほれと差し出された手に襷をのせればそのままKKは暁人の後ろに回った。中心に紐の真ん中がくるようにして肩から脇を回わり背中で結ばれる。少し引っ張られてきゅっといい音がした。またソファに戻ったKKをよそに同じ赤の鉢巻きの中心を額にあて後ろで結ぶ。それから白手袋をはめて。

「どう?」

どやっとばかりに腰に手を当ててKKに向き直った。KKは上から下まで視線を動かして、無言。何も言われないと逆に恥ずかしい。
「KK?なんか言ってくれない?」
「……似合ってるんじゃねえか?」
「それはそれでなんかなあ」
「なんだよ」

似合っていると言われても嬉しいのか恥ずかしいのか良く分からない微妙な気持ちになる。いまいちな反応だったくせにKKは引き続きじろじろとこちらを見ているしいたたまれない。

「応援団っていったらどんなポーズかな」
「なんか腕広げてるやつじゃねえか?」
「ああ、フレーフレーって?」
こうかなとポーズをとってみたら間髪入れずにスマホのシャッター音。
「ちょ、なんで撮ってるの」
「お前の妹に送れって言われてんだよ」
しれっとそう言ってスマホを揺らす。
「いつの間にそんな仲良くなったのさ」
「たまにここ来てるからな」
「それは知ってるけど」
同年代の絵梨佳ちゃんと頼りになる大人枠だと凛子さんに懐いているらしい。お互い来る時間が違うこともありアジトではそれほど顔をあわせていない。
「送らないでよね。恥ずかしいなあもう」
「へーへー」
呑気な返事にこれ絶対もう麻里に写真送ったなと察した。

 

2022年11月25日