花火

べそべそしてる時は出力してなかったことにする。というわけでKAボツネタだけどもったいない精神。

聞いたことのある歌を小さく口ずさみながら暁人がアジトの片付けをしている。
ペーパーレスなとど声高に叫ばれる昨今に対抗するように詰まれた紙、紙、紙。その大半が自分のために用意されていると分かってはいてもタブレットなりパソコンなりと向き合うのは中々に疲労が溜まる。
ただでさえこの能力を捩じ込まれた当初は肉体的にも精神的にも散々だった。そういう事情もありこのアジト内ではわざわざ紙を減らしましょうなんてことは誰も口にしない。とはいえ流石に山のように詰まれた書類は邪魔ではある。
保管しておきたい資料であればあるほどそこにある端末やサーバーに納められているだろうことを考えれば済んだ案件で書き込みもしていないような資料達は処分されるのを待つだけだ。
「KK、この山はいるやつ?」
「あーそれは、……どっちだったか……多分一度廃棄に分けたやつか?……書き込みしてあるやつだけ分けといてくれ」
「付箋は?」
「付いてても書き込みの無い方に分けていい」
「雑じゃない?」
「なんかしら書き込んでないなら出力しただけの紙だからな」
変に中身を見てあれもこれもとなれば減らないのだからそれでいい。必要になればそこの端末からいくらでも見れるはずだ。そう言えばわかったと暁人が紙の山を移動させていく。
暫くするとまた聞いたことのある曲を口ずさみ始めた。自分の知っている歌を随分と歳の離れた暁人が歌っているのがなんだか不思議だった。
「お前懐かしい歌知ってんだな」
「え?ああ、なんか麻里が歌ってたんだよね。音楽の教科書に載ってたらしいよ」
「教科書に?」
「みたいだよ。あとなんだろCMでも聞いたことあるかも?」
「そうか」
「真夏のピークが去ったってまさに今の時期の歌だよね」
「暦上は秋の方が近いしもう夕方でもないけどな」
「細かいな。まだ暑いんだからいいじゃん」
くすりと笑って所々歌詞を覚えていないのか言葉の無いメロディーだけを追っていく。
「うろ覚えか」
「まあ全部は覚えてないんだけど妙に印象に残るって言うか」
歌詞の本当の意味なんてものは書いた人間にしか解りはしないが誰にだって心に引っ掛かるもののひとつやふたつあるだろう。
「近くのお祭りで花火が上がるとさ、ああもう帰らなきゃいけないんだなって寂しくなったなあ。子供の頃ってそんなに夜に遊びに行くことってないから」
「都内で花火大会があると渋谷もいつもよりうるさくて面倒で仕方なかったな」
情緒もくそもねえが羽目を外した若者達が何故か花火が終わった後関係ない渋谷で騒ぐのもいつもの事だった。家族を連れて近所の花火を見に行ったことさえ数えるほどあるかどうか。移動してから少なくとも息子が覚えているだろう頃にはそんなことさえしていないだろう。本当にろくでもない。
「そう言えば今年最後の花火ってどこだろうね」
「冬場に上げるとこだってあるだろ」
地方の観光地だったら大小問わなければやっていそうだ。
「えー。うーんじゃあ東京の花火大会?」
「大会は知らねえが浦安に行きゃあ毎日見れんだろ」
「ああ……もう、情緒がないなあ」
呆れたようにそう言って笑うと、書類の仕分けに戻った。