食事について

ご都合主義。いっぱい食べる君が好き

 

 

 

「お前食う量減ってねえか?」
ふとKKがそう言った。
「え、そうかな?そんなに変わってないと思うんだけど」
目の前にあるのは各々が選んだ定食だ。KKは日替わりの焼き魚、今日は鯖だった。暁人はしょうが焼き定食。それなりにボリュームのある定食屋でランチの喧騒を少し過ぎた頃に入ったため席についている客はまばらだ。

「もう一品二品つけてたろ」
「そう言われると……そうかも。……うーん、でも元々そこまで食べる方じゃないんだよね僕」

なに言ってんだこいつと言わんばかりのあきれた視線を投げてくるKKに少しむっとするも確かに最近食費が若干浮いている気もする。

「ていうかあの後が変だったんじゃないかな」
「変だったって?」
「うーん、さっき絶対嘘みたいな顔してたけどKKに会う前は元々普通の量で十分だったんだよ」
しょうが焼きを箸で摘み上げ口許へ運ぶ。大きめの豚肉にシャキシャキとした食感の玉ねぎがよく合うし味付けも生姜がしっかりと効いていてご飯が進む。
「あんだけ食っといてそう言われてもな」
「あの時は食べても食べても足りなかったんだけどさ」
二心同体で渋谷を文字通り飛び回った夜を思い浮かべながらも箸を持つ手は止めない。互いに暖かい食事を無為にするようなことはしない。
KKも着々と鯖の身を解しては口にする。赤味噌の味噌汁と冷奴。切り干し大根と程よく漬かった浅漬け等と特に目立って変わったところはないが結局こういうものが一番だったりする。
「……思ったんだけどあれKKのせいなんじゃない?」
「は?」
「僕に取り憑いてたじゃん」
「…………」
そう言われれば昔から美しい女幽霊に取り憑かれた男がどんどんと渇れていくなんて話は枚挙にいとまがない。ただしこの場合取り憑いたのはKKで取り憑かれたのは暁人である。

「美人の女幽霊じゃなくてすまんな」
「なにそれ」
おかしいのと笑いながら箸を置きお茶に手を伸ばす。
「まーでも美人幽霊だったらあんな喧嘩腰にはならなかったかも?」
「それはお互い様じゃねえか?」
「じゃ、例えば僕じゃなくて麻里だったらKKはどうした?」
そう言われてKKは想像したのか一瞬黙って、目を泳がせた。
「……お前でよかったわ。だがなあ、そんな例え方だとこっちは凛子になるぞ」
「なんだろう、背筋が伸びそうだね。KKでよかった、かもね」

直接的なコメントは控えるのがお互いのためだ。なんせうちの女性陣は強いのだから。
そんな会話をしつつも箸を動かしていればあっという間に食べ終わる。元々仕事柄食事にあまり時間を掛けなかったKKはともかく暁人もだ。食事の仕草を見れば育ちが解るなんて言われることもあるがなるほどそういう意味ではしっかりとした家だったんだろう。綺麗に片付いた皿を見てKKは思った。

「なに」
「いや、お前食うの早いよな」
「KKに言われたくはないけどね。まあうちもともと食事の時喋らなかったんだよ。まったく喋らないってことはないんだけど」
だから友達と外でご飯食べる時とか結構気を遣ったよと笑う。
「意外だった?」
「いや……」
そもそもそんな団欒を過ごすような身ではなかったと思い至り暁人にしてもそれはもう随分と前の事だろう。余計な事を聞いたとKKは伝票を手に取った。

 

「暁人デザートはいいのか?」
「今すぐはいいかな。でも何か買っていこうか。今日は皆いるんでしょ」
「ここからだと前にお前が何か言ってたやつが近いんじゃねえか」
「ちょっとKK漠然とし過ぎ」

しょうがないなと笑いながらスマホで検索を始める。近場の店舗をピックアップすれば確かに前に話題に出た可愛らしい見た目の菓子と店の写真が表示される。最近出たばかりの店らしくそれなりの行列になっているらしい。勿論そんな写っている後ろ姿は女子ばかりだ。

「あー、これかあ。KKこれに並ぶ元気ある?」
「可愛い妹のために頑張ってこいよ」
「ほんとそういうとこさあ」

 

2022年11月15日