秋と言えば

秋と言えばもそれぞれですよねって言うK暁

 

 

怪奇現象が起こるという依頼があっさりと解決して終わり、帰宅するであろう人間もまばらになった住宅街を歩いていると急に暁人がキョロキョロと周りを見回した。つられて意識を周りに向けるが妙な気配はない。
「どうかしたか」
「え?あ、いや甘い匂いがしたから」
「甘い?」
言われてすんと鼻を鳴らしてみても暁人の言う甘い匂いとやらは分からなかった。
「多分キンモクセイだと思うんだけど」
確かに庭木としてよく植えられている木だ。そこそこ庭のある一軒家が建ち並ぶ住宅街だからそこらに植えてあっても不思議じゃない。
「もうそんな時期なんだなって」
「お前、意外と繊細だよな」
「え?そう?もう秋なんだなって気がするから結構好きなんだけど…繊細って程じゃなくない?」
「そういうもんかねえ」
いちいち季節が変わることに思うことなんて大して無いな。思い出そうとしたところで薄っぺらい記憶では季節毎のイベントなんてものも録にこなしては来なかったという事実を突きつけられるだけだ。
「じゃあKKは何に秋を感じるわけ?」
「秋か……ワイシャツが長袖になった時とかか?」
KKに比べればそうかもねと暁人が苦笑いで返してくる。ふわりと風が抜けていってああこれかと分かる。すっかり気にもとめなくなったそれも気づけば確かにそういう風物詩だったなと同意する。
「匂いはするけど見当たらないんだよね」
「向こうから吹いてきたから路地の奥からだろうな」
車一台通るのがやっとという幅の道の奥までぽつぽつと立つ街頭の光でそれらしき庭木が見える。
「あ。」
今度は香ばしい匂いが漂ってきてそっちに暁人が反応する。キンモクセイとは違って吹き抜けていかないそれは俺にもすぐに解った。
「夕飯は秋刀魚にするか」
「だよね。いつもの定食屋間に合うかな」
「こっからだとギリかもな。居酒屋でもいいか?」
「どっちでも」
店先に出されている黒板に昨日から時期物の定食として書かれていたのを暁人も見ていたんだろう。まんまと秋の風物詩である秋刀魚の口になった俺達は家路を急ぐことにした。

 

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KKはトイレの芳香剤だと思う世代だろうなとか思って書き始めたんだ。ごめん。